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名古屋高等裁判所 昭和60年(ネ)444号 判決

控訴人

桑名信用金庫

右代表者代表理事

伊藤正雄

右訴訟代理人弁護士

青山學

川上敦子

被控訴人

大京観光株式会社

右代表者代表取締役

横山修二

右訴訟代理人弁護士

山岸赳夫

成田龍一

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

二  当事者の主張及び証拠関係は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示及び当審訴訟記録中書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

(訂正)

1  原判決二枚目表七行目の「同地方裁判所」から八行目の末尾までを削除する。

2  同二枚目裏三行目から四行目にかけての「別紙物件目録記載の不動産」を「本件不動産」に改め、九行目の「本件不動産」の次に「同年八月二七日、」を加える。

3  同三枚目表四行目の「三輪に対し、」の次に「同日付書面により、」を、五行目の「すべく、」の次に「同書面到達後」をそれぞれ加え、一一行目の「意思表示をした。」を「意思表示をし、同書面は翌九月二〇日三輪に到達した。」に改める。

4  同三枚目裏七行目の「認め、」の次に「本件不動産が被控訴人の所有に属することは否認し、」を加える。

(控訴人の付加した陳述)

1  仮に、本件不動産が被控訴人の所有に属するとしても、その旨の取得登記を経ていないから、右所有権をもつて控訴人に対抗できない。

2  民法五四五条一項但書にいう「第三者」とは、同法九四条二項及び九六条三項にいう「第三者」と同義であつて、「解除された契約から生じた法律効果を基礎として、解除までに、解除せられた債権契約の目的物に対し新たな権利を取得したもの」と解すべきである。しかして、差押債権者は、民法九四条二項の「第三者」に該当すると解されており(大審院昭和八年一二月一九日判決・民集一二巻二四号二八八二頁参照)、右と同様に、本件売買契約の目的物である本件不動産を仮差押した控訴人は、同法五四五条一項但書の第三者にあたるものといわなければならない。

(被控訴人の付加した陳述)

被控訴人が本件不動産について取得登記を経ていないことは認めるが、控訴人は被控訴人の登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない。すなわち、民法五四五条一項但書の「第三者」とは、「特別ナル原因ニ基キ双務契約ノ一方ノ債権者ヨリ其受ケタル給付ノ物体ニ付キ或権利ヲ取得シタル者」をいうべきところ(大審院明治四二年五月一四日判決・民録一五輯四九〇頁)、差押の性質は、強制執行の目的たる物件又は権利の競売換価若しくは転付をなすため強制執行上の一手続に過ぎないものであつて、差押債権者のために特に民法上の物権若しくは債権を生ずるものではないから、差押債権者は、そのなした差押により、本条項但書にいう「第三者」の権利を得たものということはできず(大審院明治三四年一二月七日民録七輯一一巻一六頁参照)、したがつて、本件不動産の仮差押債権者である控訴人は右法条にいう「第三者」にあたらないからである。

理由

一1  請求原因1項の事実及び同2項のうち、昭和五九年八月二七日、本件不動産につき三輪のための所有権保存登記が経由されていることは当事者間に争いがない。

2  〈証拠〉を総合すれば、請求原因2項のその余の事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。そうすると、本件売買契約は昭和五九年九月二五日の経過をもつて解除され、本件不動産の所有権は、本件売買契約の当初に遡及して被控訴人に復帰したものといわなければならない。

二被控訴人が本件不動産について所有権取得登記を経由していないことは当事者間に争いがないところ、被控訴人は、本件不動産の売買契約解除前に右不動産の仮差押をした控訴人は民法五四五条一項但書にいう「第三者」にはあたらないから、被控訴人の対抗要件の具備は問題とならず、ひいて、控訴人は登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にはあたらないとの趣旨を主張する。

しかしながら、民法五四五条一項但書にいう「第三者」とは、解除以前において解除された契約の目的物につき別個の、新たな権利関係を取得したものを指称し、したがつて、債務者にかかわる取引、不法行為等に因つて生じた金銭債権を保全するために、債務者の責任財産の現状を維持することを図つて、契約の目的物につき、解約までにこれを仮差押した債権者もまた右目的物に別個の、新たな権利関係を取得したものというを妨げないから、同条項但書にいう「第三者」にあたると解すべきである。原判決及び被控訴人の引用する大審院明治三四年一二月七日判決は、契約解除によつて消滅する債権そのものの仮差押に関するものであつて、事案を異にし、本件において援用することは相当でない。

そのほか、控訴人がいわゆる背信的悪意者に該当するとして、被控訴人の本件不動産の所有権取得につき、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらないと認めるに足る証拠は見当らない。

そうであれば、控訴人は民法一七七条にいう「第三者」にあたるから、被控訴人は登記なくして本件不動産の所有権取得を控訴人に対抗することはできないといわなければならず、本件不動産の所有権に基づいて控訴人の本件仮差押の排除を求める被控訴人の本訴請求は理由がないというべきである。

三よつて、以上に説示したところと結論を異にする原判決は不当であるから、これを取り消して被控訴人の本訴請求を棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中田四郎 裁判官日高乙彦 裁判官三宅俊一郎)

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